それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『この世界の片隅に』(2016)

この世界の片隅に』(2016)

f:id:movieyamashin:20220104132743j:plain監督:片渕須直

声の出演:のん、細谷佳正小野大輔尾身美詞稲葉菜月潘めぐみ岩井七世牛山茂新谷真弓小山剛志、他

配給:東京テアトル

ー概要ー

第13回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞したこうの史代の同名コミックを、「マイマイ新子と千年の魔法」の片渕須直監督がアニメ映画化。第2次世界大戦下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも前向きに生きようとするヒロインと、彼女を取り巻く人々の日常を生き生きと描く。昭和19年、故郷の広島市江波から20キロ離れた呉に18歳で嫁いできた女性すずは、戦争によって様々なものが欠乏する中で、家族の毎日の食卓を作るために工夫を凝らしていた。しかし戦争が進むにつれ、日本海軍の拠点である呉は空襲の標的となり、すずの身近なものも次々と失われていく。それでもなお、前を向いて日々の暮らしを営み続けるすずだったが……。能年玲奈から改名したのんが主人公すず役でアニメ映画の声優に初挑戦した。公開後は口コミやSNSで評判が広まり、15週連続で興行ランキングのトップ10入り。第90回キネマ旬報トップテンで「となりのトトロ」以来となるアニメーション作品での1位を獲得するなど高く評価され、第40回日本アカデミー賞でも最優秀アニメーション作品賞を受賞。国外でもフランスのアヌシー国際アニメーション映画祭の長編コンペティション部門で審査員賞を受賞した。

映画.comより

ー感想ー

ああ、すずさん。テアトル系列の映画館で見て、しばらく経ってイオンシネマで見た時も同じようなことを思った気がする。のんびり者のすずさんの声を、暴力の描写が苦手というのんが担い、モアピースフルな主人公。彼女と、背景に迫る戦争との対比。ああ、すずさん。

⁡細かくすずの生活が描かれていく。どういう家で育ち、食べ、風呂に入り、寝ているの。楽しそうに楠木公ゆかりの楠公飯を作ったり、絵を描いたり。近所のおばちゃんが会合ですずに「もっと寄ってえや〜この席は寒いけんね〜」と密着を求めていた。今以上に強い近所付き合いみたいだ。厳しい生活の中でも満ちた生活が描かれる。様式は違っても、今と一緒、今より楽しそうにも思えるやんか。⁡

原作者、監督ともに、日常生活を描くことができれば見応えのあるエンタメになり得るという確信を持っているという。とくに本作では、あくまでもすずさんという人間を密に描き、70年以上前の人たちも今の僕らと何ら変わらないのであって、その中で戦争を背景に映し、感じてもらう。今と昔が地続きであることが一つのテーマとして主張される。徹底的なリサーチがすずさんの生活にことどく反映され、戦時中は毎日絶望的な日々を送ってるんだろうなというリサーチ不足のチンケな僕の妄想を吹き飛ばす。戦時中の世界の片隅が、実存感をもって丁寧に丁寧に描かれいていく、すごく好きだ。

⁡一方で、アニメーションの中のかわいらしいデザインは気の緩みを与えてくれる、あぁピースフル。どんどんすずの世界を身近に感じ、好きになり、熱が高まる。初のラブシーンで胸ドキがあったりしてなお熱い。

⁡その中で、わかっていても戦争が徐々に牙を剥くからエモい。旦那の周作がすずにかける「お前だけは最後までこの世界で普通でまともでおってくれ」という言葉がエモい。戦争が落ち着いて始まるラストと、エンドロールもエモい。序盤でまいた種が回収されいく。終盤のドラマが高確率で胸を打ちまくる。

昭和19年から昭和20年にかけての異なる時代を立体的に知り、体験し、指摘を受けずとも反戦魂が宿る。平和を願う僕らみたいな普通の人間の生活を、すずに乗せて何よりも大事に描いてくれたからこそ、悲惨さに重点を置いて描く戦争映画以上の感銘を受けた。最高でした!

⁡ー満足度ー

85%【100%中】

『ハドソン川の奇跡』(2016)

ハドソン川の奇跡』(2016)

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監督:クリント・イーストウッド

出演:トム・ハンクスアーロン・エッカートローラ・リニー、クリス・バウアー、マイク・オマリー、アンナ・ガン、ジェイミー・シェリダン、他

配給:ワーナー・ブラザーズ映画

ー概要ー

名匠クリント・イーストウッド監督がトム・ハンクスを主演に迎え、2009年のアメリカ・ニューヨークで起こり、奇跡的な生還劇として世界に広く報道された航空機事故を、当事者であるチェズレイ・サレンバーガー機長の手記「機長、究極の決断 『ハドソン川』の奇跡」をもとに映画化。09年1月15日、乗客乗員155人を乗せた航空機がマンハッタンの上空850メートルでコントロールを失う。機長のチェズレイ・“サリー”・サレンバーガーは必死に機体を制御し、ハドソン川に着水させることに成功。その後も浸水する機体から乗客の誘導を指揮し、全員が事故から生還する。サリー機長は一躍、国民的英雄として称賛されるが、その判断が正しかったのか、国家運輸安全委員会の厳しい追及が行われる。

映画.comより

 

ー感想ー


⁡先日『ブリッジ・オブ・スパイ』で出会ったばかり、おかえりトム・ハンクス。本作で彼は白髪で、機長としてのプレッシャーに苛まれていた、もうおやすみトム・ハンクス。⁡


いつだって裏切らないトム・ハンクスが、今回は航空機事故で大勢の命を救う機長に扮する。現場と机上の違いを、彼の熟練さとクリント・イーストウッド監督の人間国宝的職人技が浮き彫りにしていく。これは机上の映画鑑賞であるぞという現実を受け止めつつ、最大濃度でノンフィクションの緊張を堪能できた!


⁡一流パイロットの有り様はとても興味深い。プロフェッショナル仕事の流儀で取り上げられていた大手航空会社の熟練パイロットは言っていた。「我々は砦のさらに砦のような存在だ」我々が崩壊したらすべてが終わる。そのようなとてつもない責任を背負いながら新型旅客機B787のフライトに挑戦する彼の姿と、トム・ハンクスの姿がピタリと重なった。本作にあたって何度もフライトシュミレーションで操作を特訓したそうだが、それよりもやはり熟練のコツのようなものだろうか、コックピット時の風貌、とくに顔、目つきが大手航空会社の機長と同じものを発していたように感じた。トムハンクス演じる機長は、オフの時間にたびたび走る。おそらく趣味、健康維持、ルーティンといった意味で走っているのだろう。文豪村上春樹氏の趣味もまた走ること。彼は走ることが本業の書くことに良い影響をもたらすと言う。実在する一流のプロたちとの共通点が描かれ、体現されていた。それは強度の強いノンフィクションとして十分に機能していたように見えた。


ハドソン川に飛行機が着水するシーンはどう見たって興奮した。見たことがないものを見せてくれる、映画の醍醐味がそこにあった。墜落し、川に浮いてる飛行機の周りに救護ボートやヘリが同心円状に集まっている様子、そんな光景は見たことないのでとても不思議だった。実際にエアバスを買い取り、川に浮かせ、当時使用された救護ボート、同じオペレーターまで使用しているそうだ。そりゃカメラ伝えとはいえ、異様な光景が本物で作られているのだから、すごいを超えて不思議なのだ。
⁡ストレスを一切排除したカット、編集も見事で、呼吸しているかのようだった。頻繁に入れ替わる時系列も何のその。クリント・イーストウッド監督のジャズ好きが映画にも反映されているかのようで、エンドロールで流れる自身が作った音楽もまた同様。トム・ハンクスの相棒の副機長を演じたアーロン・エッカートの存在がもはやチコ・ゴンザレスに見えてくる。


インパクトを挟みつつ、なめらかなノンフィクション作品。機長のプロ意識と、事故によって生まれるプロの葛藤をいかんなく堪能させていただきました。まだまだ元気でいてねクリント・イーストウッド。ありがとうトム・ハンクス。最高でしたハドソン川の奇跡。⁡


ー満足度ー

85%【100%中】

『シン・ゴジラ』(2016)

シン・ゴジラ』(2016)

f:id:movieyamashin:20220102115634j:plain総監督:庵野秀明

監督:樋口真嗣

出演:長谷川博己竹野内豊石原さとみ高良健吾大杉漣柄本明余貴美子市川実日子國村隼平泉成他、

配給:東宝

ー概要ー

ゴジラ FINAL WARS」(2004)以来12年ぶりに東宝が製作したオリジナルの「ゴジラ」映画。総監督・脚本は「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の庵野秀明が務め、「のぼうの城」「進撃の巨人 ATTACK ON TITAN」の樋口真嗣が監督、同じく「のぼうの城」「進撃の巨人」などで特撮監督を務めた尾上克郎が准監督。14年のハリウッド版「GODZILLA ゴジラ」に登場したゴジラを上回る、体長118.5メートルという史上最大のゴジラをフルCGでスクリーンに描き出し、リピーターが続出するなど社会現象とも呼べる大ヒットを記録。興行収入は81.5億円に上り、第40回日本アカデミー賞では作品賞、監督賞ほか7部門で最優秀賞を受賞した。ある時、東京湾アクアトンネルで崩落事故が発生。首相官邸で開かれた緊急会議では、地震や海底火山の噴火など事故原因をめぐって議論が紛糾する。そんな中、内閣官房副長官矢口蘭堂は、海底に正体不明の巨大生物が生息し、それが事故の原因ではないかと推測するが……。矢口役の長谷川博己内閣総理大臣補佐官赤坂秀樹役の竹野内豊、米国大統領特使カヨコ・アン・パタースン役の石原さとみをメインに総勢328人のキャストが出演し、狂言師野村萬斎ゴジラモーションキャプチャーアクターとして参加した。

映画.comより

ー感想ー⁡

これはエンタメで勤勉の重要性を問う日本人底上げ映画じゃないですか。

⁡未確認巨大生物、通称ゴジラへの対処を迫られる日本のリーダーたち。首相は街を破壊していく謎の生物に対して決断を下していく。わからないものに対して「そうなのか!?」とわからないことを自白し、わかったことに対して「わかった!」と言い、ときには米国大統領との電話で「I understand!」と言う首相。わからないものをわかっていく瞬間が膨大に映されていた。首相を筆頭にして日本総出で成長していく様子がゴジラを通して多方面から描かれていた。数字を覚えて勘定の計算をするように、英単語を覚えて外国人と会話をするように、ゴジラの生態系を学んでヤシオリ作戦を実施する。僕にとって本作は、ゴジラとの攻防に手に汗握りながらも、人間の成長をとてつもないリアリティで実感できる最高のエンタメ作品でした!

長谷川博己演じる主人公矢口、彼こそまさにわからないものを理解していく象徴のように描かれる。39歳にして官邸に入ることができるのはエリート中のエリート。官邸内では一際若く、そのため若手ならではの理想論を展開し、出る杭として打たれてしまう。しかし矢口はゴジラとの実践を通して、わからなかった上司の言っていたことを理解し、成長する。上司もまた矢口を理解し、成長する。本作は矢口を中心に人が成長する物語とも見て取れる。⁡

庵野監督は、この映画はドキュメンタリーなのだと言う。わからないものは描かない、わかったものだけを描く、徹底した現実的な姿勢。4時間分ほどの脚本を1時間半に凝縮させたといわれる本作特徴的な早口のセリフは、ただ実際の官邸でのやりとりを再現しただけに過ぎず、ゴジラのデザインは「人がゴジラの中に入っている」と思わせないため初代のデザインに近づけられているそうだ。実寸に基づいた官邸の再現、iphoneにより撮影された戦車の中など、どこを見ても現場の匂いが伝わる。徹底してわかったものだけが投影された本作は、怪獣が出てくる映画とは思えないリアリティを放っている。わぁゴジラだ、楽しい!とともに、やばい、どうしよう!を感じるのだ。矢口の成長とも重ねてしまうし、災害とも重ねてしまうし、自分の生活とも重ねてしまうし、すごくドキドキするのだ!もちろん自衛隊による銃撃戦やヤシオリ作戦のリアリティを伴ったアクションもたまらない。

⁡まさかゴジラが出現するなんて全く想像もしなかった日本のエリートたちが、慌てふためき勉強を猛スピードで開始する。その姿は、まるで社会に出てもっと学生のとき勉強しておけばよかったと嘆きながら猛勉強する社会人であり、僕のようでもありました。災害なのか、出世なのか、ゴジラなのか、未知なる未来のために、もっと勤勉に励み備えようじゃないですか。楽しませてもらって、真面目にもなれて、得した気分!ホッホッホ。

ー満足度ー

90%【100%中】

『キャロル』(2016)

『キャロル』(2016)

f:id:movieyamashin:20220101113835j:plain監督:トッド・ヘインズ

出演:ケイト・ブランシェットルーニー・マーラサラ・ポールソン、ジェイク・レイシー、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ、コリー・マイケル・スミス、ケビン・クローリー

配給:ファントム・フィルム

ー概要ー

ブルージャスミン」のケイト・ブランシェットと「ドラゴン・タトゥーの女」のルーニー・マーラが共演し、1950年代ニューヨークを舞台に女同士の美しい恋を描いた恋愛ドラマ。「太陽がいっぱい」などで知られるアメリカの女性作家パトリシア・ハイスミスが52年に発表したベストセラー小説「ザ・プライス・オブ・ソルト」を、「エデンより彼方に」のトッド・ヘインズ監督が映画化した。52年、冬。ジャーナリストを夢見てマンハッタンにやって来たテレーズは、クリスマスシーズンのデパートで玩具販売員のアルバイトをしていた。彼女にはリチャードという恋人がいたが、なかなか結婚に踏み切れずにいる。ある日テレーズは、デパートに娘へのプレゼントを探しに来たエレガントでミステリアスな女性キャロルにひと目で心を奪われてしまう。それ以来、2人は会うようになり、テレーズはキャロルが夫と離婚訴訟中であることを知る。生まれて初めて本当の恋をしていると実感するテレーズは、キャロルから車での小旅行に誘われ、ともに旅立つが……。テレーズ役のマーラが第68回カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞した。

映画.comより

ー感想ー⁡

2016年度傑作『ブルックリン』『ブリッジ・オブ・スパイ』に続き『キャロル』もまた50年代のアメリカが舞台。この三作品に共通する、選択を強いられる人間の物語。第二次世界大戦が終わったばかりの不安定な時代、その先が読めない中で生き抜いていくためにはきっと難しい選択が付き物だったのでしょう。ルーニー・マーラ演じるテレーズと、ケイト・ブランシェット演じるキャロルもまた、当時はまだ受け入れられていなかった同性愛を選択していく。その困難の中にあるまっさらな恋愛を見事に映像化した、大傑作だー!

⁡まず何より、映像の美しさに圧倒された。撮影のエド・ラックマンとトッドヘインズ監督によりこだわり抜かれた16mmフィルム。フィルムの粒子が、登場人物の感情をより豊かに見せる。銀幕のスターに恋をする瞬間とは、このような映像から生まれるのでしょう。マーティン・スコセッシ監督と頻繁にタッグを組むサンディ・パウエルによる衣装にもまた見惚れてしまう。50年代に使われていた色しか使用せず、生地、縫い目もこだわり抜いたという。その下地にあって、この映画の中で最も輝きを放っていたルーニー・マーラという女優。『ドラゴン・タトゥーの女』を撮影してすぐの彼女は、それまでとまた異なった、ピュアで華奢で初々しさのある女性として映画の中にいた。デパートで佇む彼女から、ベッドで脱ぐシーンまで、どの角度、どのシュチュエーションでもすばらしかった。

⁡その中でもお気に入りはテレーズがキャロルへプレゼントを渡すシーン。2人がしがらみから解放されて向かったカフェで、テレーズがキャロルにビリー・ホリデイのレコードをプレゼントする。そしてテレーズが恥ずかしそうに笑う。「人に興味を持った方がいい」と言われ続けた感情表現が苦手な彼女が、初めて自然な笑顔を見せるシーン。恥じらいなのか、嬉しさなのかわからないけど、人を思うことによって生まれた笑顔。不器用な彼女が初めて直接的に人へ気持ちを表す場面であって、彼女の美しすぎる笑顔に悶えながらガッツポーズもできるのです。そうだ、幸せなときに人って笑うんだよな、って当たり前だけど大事なことを教えてくれました。

⁡「自分を偽る生き方では、私の存在意義はない」キャロルが終盤に吐き出すセリフ。キャロルは自分の中で、どうあるべきか常に選択を強いられている。テレーズもまたそんな彼女に全てを捧げる恋をし、そのために辛い選択を体験する。妥協は存在しない。そんな人間の姿は、いつの時代であっても魅力的。だから2人は恋に落ちるんだろうなぁ。

ー満足度ー

90%【100%中】

『淵に立つ』(2016)

『淵に立つ』(2016)/日本

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監督:深田晃司

出演:浅野忠信筒井真理子古舘寛治、太賀、篠川桃音、三浦貴大、真広佳奈

配給:エレファントハウス

ー概要ー

「歓待」「ほとりの朔子」などで世界的注目を集める深田晃司監督が浅野忠信主演でメガホンをとり、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した人間ドラマ。下町で小さな金属加工工場を営みながら平穏な暮らしを送っていた夫婦とその娘の前に、夫の昔の知人である前科者の男が現われる。奇妙な共同生活を送りはじめる彼らだったが、やがて男は残酷な爪痕を残して姿を消す。8年後、夫婦は皮肉な巡り合わせから男の消息をつかむ。しかし、そのことによって夫婦が互いに心の奥底に抱えてきた秘密があぶり出されていく。静かな狂気を秘める主人公を浅野が熱演し、彼の存在に翻弄される夫婦を「希望の国」「アキレスと亀」の筒井真理子と「マイ・バック・ページ」の古舘寛治がそれぞれ演じた。

映画.comより

ー感想ー

いきなり家族の前に現れた八坂という男。まずなんとも気味の悪い。第一印象から負の異彩を放っている。髪型ひとつにしても気味が悪い。セットするのなんてだるい。めんどくせぇ。こうしとけばいいんでしょ。そう思ってるに違いない。劣化版T-1000みたいなオールバック。歩き方もなんとなく似ていた。T-1000はジョン・コナーの養父母に化け、家族をめちゃくちゃにした。変なオールバックの男は家族をめちゃくちゃにする。

実はそんな八坂は、完成されていた家族崩壊のスイッチをただ押しに来ただけのような存在。元々家族は冷めきっていた。確かに悪いことをするのだけれど、そもそもの問題は家族にあった。そして八坂襲来後あるタイミングで、家族の間に潜み、蓄積し、堰き止められていたドロドロしたものがついに溢れ出す。家族が真に崩壊していく。ここがほんとに恐ろしかった。夫婦が事務所の机で語り合うシーンだ。もぬけのからになった妻と、爪を切る夫。「あ〜疲れた〜」という筒井真理子演じる妻のセリフが、終焉の鐘みたいに響く。八坂をキッカケに、元々崩壊していた家族が崩壊に気づく。タイトル通り、気づいた頃にはもう淵に立っている。

後半で描かれていたのは、偽りを取り払った裸の家族。全てをあきらめたかのようなやりとり。八坂を巡る旅の車内のいたたまれなさといったら。。同年作『クリーピー 偽りの隣人』のラストにも勝る絶望的な車中でした。くらいました。。

ー満足度ー

90%【100%中】

『ブリッジ・オブ・スパイ』(2016)

ブリッジ・オブ・スパイ』(2016)

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監督:スティーブン・スピルバーグ

⁡出演:トム・ハンクスマーク・ライランス、スコット・シェパード、エイミー・ライアンセバスチャン・コッホアラン・アルダ、オースティン・ストウェル、ミハイル・ゴアホイ、ウィル・ロジャース

ー概要ー

スティーブン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演、ジョエル&イーサン・コーエン脚本と、いずれもアカデミー賞受賞歴のあるハリウッド最高峰の才能が結集し、1950~60年代の米ソ冷戦下で起こった実話を描いたサスペンスドラマ。保険の分野で着実にキャリアを積み重ねてきた弁護士ジェームズ・ドノバンは、ソ連のスパイとしてFBIに逮捕されたルドルフ・アベルの弁護を依頼される。敵国の人間を弁護することに周囲から非難を浴びせられても、弁護士としての職務を果たそうとするドノバンと、祖国への忠義を貫くアベル。2人の間には、次第に互いに対する理解や尊敬の念が芽生えていく。死刑が確実と思われたアベルは、ドノバンの弁護で懲役30年となり、裁判は終わるが、それから5年後、ソ連を偵察飛行中だったアメリカ人パイロットのフランシス・ゲイリー・パワーズが、ソ連に捕らえられる事態が発生。両国はアベルパワーズの交換を画策し、ドノバンはその交渉役という大役を任じられる。第88回アカデミー賞では作品賞ほか6部門でノミネートを受け、ソ連スパイのアベルを演じたマーク・ライランス助演男優賞を受賞した。

映画.comより

ーはじめにー

頭脳戦のスパイ映画ですが、本作はとても見やすく、見終わった後の神々しい余韻は大作ならでは。映画を見る喜びを備えたサイコーな作品。未見の方、スパイ映画が苦手な方、好きな方、ぜひ選択肢の一つとしていかがでしょうか。

ー感想ー

ニューヨーク・ブルックリンで暮らす一見普通の絵描き老人。一方で映るのは、慌ただしく走り回る中年の大人たち。綺麗な身なりで、重たい責任を背負っているであろう顔つき。きたきた、やっぱりFBIだ。絵描き老人を捕まえるために必死に走っているのだ。両極に存在するような二種類の人間がほぼ語られずに速度をもって次々と交互に映されていく。オープニングで僕は心と体を許す決意をしました。サイコーだ!

⁡わかりやすく的確で、たまに笑えるセリフ。その瞬間をことごとく逃さないカメラワーク。追いやすさ抜群の脚本。スパイ映画にこびりついた陰鬱なイメージを取り払うかのようなトム・ハンクス&度々映る窓の光の存在。1950年代にタイムスリップさせる舞台構築もすごい。こんなに見やすいスパイ映画は初めてかもしれません。

⁡わずかな動きとセリフだけで湧く、グリーニッケ橋でのクライマックス。そもそも僕自身も苦手なジャンルのため、不慣れによる抵抗は少しあったものの、映画全体を通して十分に興奮。エンドロールではトーマス・ニューマンの音楽にのせて、学校を卒業するかのような気分に。あぁ、いつにも増して、映画を見たなぁ。。たまりませんねぇ。。

⁡ー満足度ー

80%【100%中】

『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)

ディストラクション・ベイビーズ』(2016)

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監督:真利子哲也

出演:⁡柳楽優弥菅田将暉小松菜奈村上虹郎池松壮亮北村匠海、岩瀬亮、キャンディ・ワン、テイ龍進、岡山天音、他

配給:東京テアトル

ー概要ー

柳楽優弥菅田将暉小松菜奈村上虹郎ら若手実力派キャストが集結し、愛媛県松山市を舞台に若者たちの欲望と狂気を描いた青春群像劇。世界的注目を集める新鋭・真利子哲也監督の商業映画デビュー作。『桐島、部活やめるってよ』の喜安浩平が共同脚本を、ナンバーガールZAZEN BOYS向井秀徳が音楽を担当。

ーはじめにー

暴力を主軸に描く物語に、上記に加え、池松壮亮北村匠海と、映画が何本も作れてしまう超豪華キャストが新鋭監督の下に集う意味。それが何よりも本作の重要性を伝えているのかもしれません。同年作で同じく超豪華キャスト集結の『怒り』に比べ、より血の気に満ちている今作は見るものを度々圧倒します。激しい描写や不穏な結末に耐性がある方、本音を言えばそうじゃない方にもと言いたい。非常に強いものが込められた力作だと思います。未見の方はぜひ、ご覧になってみてはいかがでしょうか。

⁡ー感想(極力ネタバレなし)ー

愛媛の小さな港町でケンカに明け暮れる主人公泰良は、突然姿を消し、松山市の中心街で目に入った輩を片っ端からどつき回る。

どちらかが立ち上がれなくなるまで続く殴り合いを何度も何度も、長回しで、音をわりかし誇張することもなく、傍観者のような目線で、捉え続ける。徹底して痛めつけられるフィジカルと徹底して捉え続けるカメラ。それによって生まれるメンタルの底深さ。監督のこだわり、泰良を演じた柳楽優弥の身を尽くした怪演により、感じました。⁡

本作の中に彼がなぜ殴るのかという意味や原因は存在ぜす、殴りたいから殴る、止めようのない独裁のような暴力。その暴力は、突然自然発生した竜巻みたいにどんどん力を増して周囲を飲み込み、破壊していく。そして暴力は曲がった形で誰かと共鳴していく。エンターテイメント性を排除してその過程を映した映像が実に生々しくて、不気味でした。

物語はどんどんおかしな方向に進んでいく。負のスパイラル。暴力の連鎖。能力を得るたびに体が蝕まれていく何かのキャラクターみたいな物語。菅田将暉演じる裕也、小松菜奈演じる那奈、村上虹郎演じる将太。彼らがそれを体現し、誰もがその可能性を孕みながら生きていることを示す鏡のような存在でもありました。小さな町が舞台であることや、カメラを意識してないかのようなセリフ、ネットニュースを用いた大きな演出から小さな演出、音楽は、より本作で描かれる暴力を身近に感じる装置として機能しているかのようでした。

数々の暴力を描いた作品や、凶悪事件がそうであるように、一つの暴力は、別の暴力を生み出す。小さい頃のケンカを思い出してみても、やっぱり負は負を生み出す。でも当人になるとそのことに全く気づかないことは皆の知るところ。暴力の渦中にいる人たちは冷静な判断を奪われ、より感情的になり、暴力を消すためにまた暴力を図る。戦争はその最たるもの。本作を見て、その人間の脆さと愚かさを思い出し、直面し、リアルな人生では迎えるべきではない結末を目の当たりにし、苦悶しました。。

⁡ー満足度ー

80%/100%