『GONIN サーガ』(2015)
『GONIN サーガ』(2015)
監督:石井隆
出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信、テリー伊藤、井上晴美、りりィ、福島リラ、松本若葉、菅田俊、井坂俊哉、根津甚八、鶴見辰吾、佐藤浩市、竹中直人、他。
ー概要ー
バイオレンスアクションの傑作として名高い「GONIN」(1995)の続編。前作も手がけた石井隆監督が東出昌大を主演に迎え、前作の登場人物たちの息子たちに焦点を当てた新たな物語を描いた。社会からつまはじきにされた5人組による、暴力団・五誠会系大越組襲撃事件から19年。五誠会は若き3代目の誠司が勢力を拡大し、襲撃事件で殺された大越組の若頭・久松の遺児・勇人は、母の安恵を支えながら、真っ当な人生を歩んでいた。そんなある日、19年前の事件を追うルポライターが安恵のもとに取材に現れたことから、事件関係者たちの運命の歯車がきしみ始める。東出のほか、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信らが出演。前作出演者からは、俳優を引退した根津甚八が一作限りの復帰を果たしたほか、鶴見辰吾、佐藤浩市が続投している。DVD/ブルーレイには約40分のシーンを追加した「ディレクターズ・ロングバージョン」が製作された。
映画.comより
ー感想ー
ピチピチチャプチャプパンパンパン♪
業界きっての雨降らし人石井隆監督が、19年の時を超え挑むハードボイルドアクション。
雨の中で叫んで!殴って!!撃って!!!
ずぶ濡れになったら何もかもどうでもよくなる我々と同じく、劇中の役者たちもずぶ濡れになったらストッパーが外れるようです。
大量の雨、室内のスプリンクラー、体から吹き出す血。本作を見ていて韓国ハードボイルド『甘い人生』が脳裏をよぎったのですが、そこでも感情に訴えかけてきたのはキム・ソヌ(イ・ビョンホン)が雨の中生き埋めにされるシーンでした。
いつもより大きな声、重くなる身体、どんなに気丈なイケメン俳優でも崩さずにはいられない表情。
本作でもまた、東出昌大を筆頭とする俳優たちは魂が飛び出そうな芝居を見せる。制作のキッカケを作った殺し屋「明神」を演じる竹中直人のイカれ具合もまた、濡れ出してから真骨頂を見せる。
一部の役者はインタビューで「無だった」と語ったように、カメラなどもはやどうでもよくなっているかのような狂気が確かに存在。
しびれた!!(ミーティング中に雨を降らせてみたいなぁ。)
仕上げのクライマックスではその狂気が回転花火のように炸裂。
長回しで、同時に複数台のカメラで、後戻りできない大量の仕掛けがふんだんに盛り込まれていて、その中心に芝居があって。
芝居の狂気がなくたって強烈だった95年と15年の時代感が混じり合うオープニングは、石井組の長年の熟達をあっという間に伝えてしまう。
前作を知らない人間には少し難しいところもあるかなと思いましたが、それを差し引いても十分にある見応え。
日常では見ることができない映画ならではの非日常と、CGでは出せない生の熱量を体感!!
ー満足度ー
75%(100%中)
『セッション』(2015)
『セッション』(2015)
監督:デイミアン・チャゼル
出演:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、メリッサ・ブノワ、ポール・ライザー、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング、他
配給:ギャガ
ー概要ー
2014年・第30回サンダンス映画祭のグランプリ&観客賞受賞を皮切りに世界各国の映画祭で注目を集め、第87回アカデミー賞では助演男優賞ほか計3部門を受賞したオリジナル作品。世界的ジャズドラマーを目指して名門音楽学校に入学したニーマンは、伝説の教師と言われるフレッチャーの指導を受けることに。しかし、常に完璧を求めるフレッチャーは容赦ない罵声を浴びせ、レッスンは次第に狂気に満ちていく。「スパイダーマン」シリーズなどで知られるベテラン俳優のJ・K・シモンズがフレッチャーを怪演し、アカデミー賞ほか数々の映画賞で助演男優賞を受賞。監督は、これまでに「グランドピアノ 狙われた黒鍵」「ラスト・エクソシズム2 悪魔の寵愛」などの脚本を担当し、弱冠28歳で長編監督2作目となる本作を手がけたデイミアン・チャゼル。
映画.comより
ー感想ー
鬼教官(才能あり)とジャズドラマー(才能あり)のセッションによって教育の臨界点をあぶり出す!
人格否定、暴力は当たり前、YOSHIKIもタジタジ、音楽映画なのか、バイオレンス映画なのか、格闘技の試合を見てるのか。。
見る者全員が画面の前で挫折を味わうことになる教師フレッチャーの独裁指導。
完璧な音楽を生み出すこと以外は徹底的に排除する姿勢。
それは先日見た『クレしん嵐を呼ぶジャングル』の世を支配しようとするアフロマッチョ「パラダイスキング」と何ら変わらない。
しかし恐ろしいことに指導を受けるニーマンは「パラダイスキング」に支配される「ただ普通に暮らしたい」と願うひろしやみさえたちとは異なり「一流のドラマーになりたい」と願って自らテリトリーに入り込んでいるため、反抗の余地はほぼない。
これが何とも恐ろしい。。
名バイプレイヤーの「バイ」の部分はどこへ行ったのか、額の血管が切れそうなほど怒鳴り散らし、身内の誰かを殺されたのかと思うほど怒り狂うJ・K・シモンズ演じる鬼教官フレッチャーは、生徒のニーマンを「続けるか辞めるか」だけの世界に閉じ込める。
ニーマンは「ケツだけ歩き大行進」ではなく「自分のドラムスキルを磨くこと」をささやかな反抗とするが、まんまとフレッチャーの思惑通りにドラムを叩いていく。
確実に人を成長させる行き過ぎた教育。
実際の激しい演奏、スピーディーなカット割り、多彩なアングルでその教育の過程をリアルにリズミカルに描き出す。
大学の卒業制作で白黒ミュージカルを撮っただけという異例の経歴で、本作にて長編&商業映画デビュー&アカデミー賞3部門受賞を果たしたデイミアン・チャゼル。
自身の高校時代の経験を基にわずか19日間の撮影で制作された本作は、生々しさとリズムを全編に冴え渡らせていました。
監督は「音楽の辛さや恐怖を描きたかった」とおっしゃてるように、本作は「青春」「協調性」を無くし「個の努力」と「指導」の部分をトキントキンに尖らせまくった『スウィングガールズ』であり、鈴木友子(上野樹里)が挫折してしまうだろう厳しすぎるプロ同様の世界を監督自らの経験をもってリアルに描く。
その中で激しくもがくニーマンの肉体は、辛さと同時に充実も感じさせてしまうところが本作を見入ってしまった理由かもしれません。
勝つか負けるかしかないレッスン教室上で鬼教官とドラムを使って戦う青年の姿はまさに新種の格闘家。。異色の傑作音楽映画の誕生を遅れて祝福です!!
ー満足度ー
85%(100%中)
『ソロモンの偽証 前篇・事件』(2015)・『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(2015)
『ソロモンの偽証 前篇・事件』(2015)・『ソロモンの偽証 後篇・裁判』(2015)
監督:成島出
出演:藤野涼子、板垣端生、石井杏奈、清水尋也、富田望生、前田航基、佐々木蔵之介、夏川結衣、永作博美、黒木華、他
配給:松竹
ー概要ー
直木賞ほか多数の文学賞を受賞するベストセラー作家の宮部みゆきが、「小説新潮」で9年間にわたり連載したミステリー巨編「ソロモンの偽証」を、「八日目の蝉」の成島出監督が映画化した2部作の前編。バブル経済が終焉を迎えつつあった1990年12月25日のクリスマスの朝、城東第三中学校の校庭で2年A組の男子生徒・柏木卓也が屋上から転落死した遺体となって発見される。警察は自殺と断定するが、さまざまな疑惑や推測が飛び交い、やがて札付きの不良生徒として知られる大出俊次を名指しした殺人の告発状が届き、事態は混沌としていく。遺体の第一発見者で2年A組のクラス委員を務めていた藤野涼子は、柏木の小学校時代の友人という他校生・神原和彦らの協力を得て、自分たちの手で真実をつかもうと学校内裁判の開廷を決意する。物語の中心となる12人をはじめとした中学生キャストは、1万人の応募があったオーディションで選出。藤野涼子役の新人女優・藤野涼子は、本作での役名をそのまま芸名に女優デビューを飾った。
映画.comより
ー感想ー
翌年『クリーピー〜』にて西野(香川照之)に拉致・監禁・半洗脳されることになる14歳の藤野涼子が、仲間と共にまっすぐな瞳で自殺の真相解明に全力前進。
その姿から「救い」を映し出す、長編ミステリー!(後篇長め)
前篇、映画だと『64 ロクヨン』以来、その他だと2021年大晦日のRIZIN以来となる「後篇早く見たい感」を堪能。
面白かった〜!
TVドラマとくっきり線を引いたアナモフィックレンズによる質感。
ふんだんに盛り込まれた雪や桜の季節感が「生」の実感を湧かす。
映画を見ている幸せに包まれました。
本作で学校という場所はロマンチックな側面を見せず、怨念が集まる代表的な「負の場所」として描かれる『呪術廻戦』同様、負の側面を見せる。
その学校の中で飲み込まれることなく自らを律し、絶対的な存在である大人に屈さず、学内裁判という形で信念を貫く藤野涼子。
『湯を沸かす〜』で杉咲花演じたイジメに打ち勝つ安澄の数年後を見ているかのような気分に。
セリフを言ってから、人が帰ってから、など、ピロートークのように「〜してから」の表情を長々と映し続ける贅沢なクローズアップによって素材の印象が確実に脳へと刻まれていく。
真相解明の楽しみ、展開への驚き、シンプルにゾクっとさせる瞬間もたっぷりとあって、真相に近づきながら人間の感情を汲み取っていく。
まさにミステリー+映画。
一方で後篇、藤野涼子率いる学生たちが体育館に止まってからか、おっと映画の足取りが重くなり、長さが気になり出す。
中学生を軸にしたドラマゆえの軽いフットワークの部分が画面から消え、代わりに始まる「チキチキ全力泣き顔選手権」。
ソースのように味付けする演出。
胃がもたれてしまいました。
『怒り』の豪華役者陣による演技バトルを遥かに超える人間の数。
「1つのドラマ:泣く人間の数」の割合が完全に崩壊。
莫大な予算で映画のためだけに建設された後篇の体育館で、何百人という人間が参加して行われた裁判シーン。
大勢が集まると制御が効かなくなる人間の行動心理が作用しているように見えてしまった気がします。
藤野涼子の信念が憑依している今、後篇のひっかかった部分にも言及しましたが、ここまで力の入った日本映画を拝めることはやっぱり嬉しい。
全篇ひっくるめて賞賛したいところ!
ー満足度ー
前篇80%(100%中)
後編60%(100%中)
『きみはいい子』(2015)
『きみはいい子』(2015)
監督:呉美保
配給:アークエンタテイメント
「そこのみにて光輝く」でモントリオール世界映画祭の最優秀監督賞を受賞した呉美保監督が、2013年本屋大賞で第4位にも選ばれた中脇初枝の同名短編小説集を映画化。5つの短編から成る原作から、「サンタさんの来ない家」「べっぴんさん」「こんにちは、さようなら」という3編を1本の映画にした。真面目だがクラスの問題に正面から向き合えない新米教師や、幼い頃に受けた暴力がトラウマになり、自分の子どもを傷つけてしまう母親など、子どもたちやそれに関わる大人たちが抱える現代社会の問題を通して、人が人を愛することの大切さを描き出す。出演は高良健吾、尾野真千子のほか、「そこのみにて光輝く」に続いての呉監督作となる池脇千鶴、高橋和也ら。
映画.comより
【感想】
見る人が増えるほど世界に平和が訪れそうだ。上辺ではない本当の優しさ。児童虐待、ネグレクトなど重たいテーマを詰め込んでいるにもかかわらず、とても見やすかったです。最高。とても距離の近さを感じます。学校の校舎、公園、おばあちゃんの家とか、ほぼ全員通ってきたといえる場所、状況の連続。自分の辿ってきた過去や現在としょっちゅう思い比べてしまった。
北海道小樽市のオールロケ、みずみずしい。函館三部作にも存在していた常に夜明けのような湿度感。これまでも家族をテーマに映画を作ってこられた呉美保監督。共通して見える小さな家族の細部を描く姿勢。自身の血肉で描いたかのような等身大の家族の物語。
児童虐待の目を背けたくなるシーンも、人と人が結びつく感動的なシーンも、一つ一つが沁みる。。中でも、終盤の高良健吾演じる小学校教師と生徒との掛け合いはよかったな〜
さまざまな人間関係による社会的な問題が描かれているけど、紐解くとやっぱり家族。そこに目をつけ丁寧に描ききった、すごいな〜
【満足度】
85%(100%中)
『インヒアレント・ヴァイス』(2015)
『インヒアレント・ヴァイス』(2015)
出演:ホアキン・フェニックス、ジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、キャサリン・ウォーターストーン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロ、マーティン・ショート、ジェナ・マローン、ジョアンナ・ニューサム、エリック・ロバーツ、他
【概要】
「ザ・マスター」のポール・トーマス・アンダーソン監督とホアキン・フェニックスが再タッグを組み、米作家トマス・ピンチョンの探偵小説「LAヴァイス」を映画化。1970年代のロサンゼルスを舞台に、ヒッピーの探偵ドックが、元恋人の依頼を受けたことから思わぬ陰謀に巻き込まれていく姿を描いた。元恋人のシャスタから、彼女が愛人をしている不動産王の悪だくみを暴いてほしいと依頼された私立探偵のドック。しかし、ドックが調査を開始すると不動産王もシャスタも姿を消してしまう。ドックはやがて、巨大な金が動く土地開発に絡んだ、国際麻薬組織の陰謀に引き寄せらていく。共演にジョシュ・ブローリン、オーウェン・ウィルソン、リース・ウィザースプーン、ベニチオ・デル・トロ。
映画.comより
【つぶやき】
どうも、ヤマシンです!
本日の映画はポール・トーマス・アンダーソン監督の『インヒアレント・ヴァイス』
ちょ、、これは、、
と見ていて170回くらい思いました。
何が何だかわからないんですね。
それもそのはず、主演のホアキン・フェニックスは役作りにおいて「理解することより混乱することが重要」と自らに言い聞かせ
共演のリース・ウェザースプーンも「混乱していると思われるのが狙いなのよ」と言い
はたまた監督自身も当初は「こんなの映画化絶対無理やん」と思ってらっしゃった
とのことで、僕が混乱せずに見れていたら彼らよりすごい人間だということになってしまう。
だったら今頃僕はスパイダーマンの敵役をしたりしてブイブイ言わせてるわけです。
どの映画もそうだとは思いますが、本作はとくに「わからなくても大丈夫」な映画なのですね。
わからないをわかっていく『シン・ゴジラ』に対して、わからないをわからないと言える本作。
開き直って見ることができると、意外と楽しい映画です。
なにせ、映像がイカしてること無問題!
凍ったチョコバナナを妖艶にレロレロする角刈りのジョシュ・ブローリンが見れたり
そのレロレロ角刈りジョシュ・ブローリンに膝で踏みつけられるホアキン・フェニックスが見れたり
CANの「Vitamin C」にのせて始まるオープニングクレジットがとてもカッコ良かったり(音楽はレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当!)
ピンクなシーンの描き方も一筋縄ではいかない。。
PTAのお抱え撮影監督ロバート・エルスウィットが撮る35ミリフィルムカメラの質感、70年代のロサンゼルスの再現もあいまって超グルーヴィーなんです!
『インヒアレント・ヴァイス』は海上保険の用語で「物事に内在する欠陥」
アメリカに内在する、もっと言うと人間に内在する欠陥を描いた作品ともいえます。
一見ぶっ飛んでるけど、僕たちの生活の延長上にあることだけで成立しているかのようにも思える。
手を振るかわりに中指を立て合うMr.ビーンチックな日常に潜む妄想ダークサイドがコツコツと描かれる。
お気に入りのシーンは薬中のマーティン・ドノヴァンがズボンを下ろしながら画面に向かって小走りするところ。
進撃の巨人と上島竜兵と『SCOOP!』のチャラ源をミックスさせたような奇跡を目にすることができるのですが、それだって薬を吸って、小走りして、ズボンをおろしさえすれば現実にできてしまうこと。
ゴリゴリマッチョのドウェイン・ジョンソンが建物と建物の間を飛ぶようなことは決してありません。
ちょっと手の届く部分があるからこそ、だいぶ変で面白いです。笑
「ストーリーの整合性?なんだそれ、ガタガタ言ってんじゃねえよ馬鹿野郎!!」(byアウトレイジの大友)
そうです、ストーリーが知りたければ、原作の書籍「LAヴァイス」をアマゾンで購入し、じっくり読めばいいだけのことですから。
わからないを受け入れたとき、わかるものがある、禅問答みたいな作品『インヒアレント・ヴァイス』
小説と映画の中だからこそ描ける飛んだ日常がそこにありました。
ちょっとチャレンジしたい方にオススメの作品!
それではまた〜👨🏻🚀
【満足度】
75%!(100%中)
『ローリング』(2015)
『ローリング』(2015)
監督:富永昌敬
出演:三浦貴大、柳英里紗、川瀬陽太、松浦裕也、磯部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、他
配給:マグネタイズ
ー概要ー
「パビリオン山椒魚」「乱暴と待機」の冨永昌敬監督が、盗撮事件で地元を追われた元教師が東京から女を連れて地元に帰ってきたことから巻き起こる人間模様を、全編水戸ロケを敢行し描いた作品。茨城県水戸のおしぼり業者で働く貫一は、盗撮事件を起こし行方をくらましていた元高校教師の権藤と再会する。かつての教え子たちにつかまり糾弾され面目を失う権藤。さらに、権藤が東京から連れて来ていたキャバクラ嬢のみはりに貫一が一目ぼれし、貫一は権藤から彼女を奪ってしまう。一方かつて権藤の盗撮した動画に録画されたある人物に目を付けた貫一の悪友たちによって、芸能事務所を巻き込んだ思わぬ騒動が巻き起こる。
映画.comより
ー感想ー
巻かれて出されるおしぼりの形態と、roaring twenties【狂騒の20年代】を意味したタイトル。川瀬陽太演じる元高校教師権藤は、汚れたおしぼりが工場で洗われて新品同様パッケージされていくかのごとく、盗撮事件の過去を洗って歩み出そうとする。ジャズ・ミュージックやトーキー映画が流行した1920年代かのごとく、教師という職業から解放されて自由になろうとする。しかし過去から逃れられず、車輪みたいに人生をローリングする男の物語。人間なら皆が心当たりのある、変身願望を冷徹に描いた怪作。
『カメラを止めるな!』のロケ地としておなじみ水戸という街で、キャバ嬢のみはりと恋をする権藤が元教え子のおしぼり回収業者として働く貫一と出会う。貫一はみはりに惹かれ、妙な三角関係が始まる。元盗撮教師と教え子がキャバ嬢を奪い合う、PTA顔面蒼白のシナリオ。しかし他人事として傍観することを許してもらえない。予想を裏切る生々しさと一手間加えられた演出の数々。誰かに気に入られることを無視した豪快さ。強いコントラストが全体を補強する。低予算でも、諦めや妥協はほぼ見受けられない。「今日から変わった」となぜか明確な線を引いて変身しようとする人間を、客観的にみたときのせつない気持ちが胸をえぐる。権藤が40歳を過ぎて「オレはもう自由だ」と自転車を蹴飛ばし颯爽に歩く姿は映画史に残るワンシーンだ。貫一や権藤の生活様式が性格を理解した気になれるほど見て取れず不安があったが、そこは僕の技量の小ささと、好みの違いによるものかもしれない。
『パビリオン山椒魚』『パンドラの匣』『乱暴と待機』さらには後年の『南瓜とマヨネーズ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』も含め、富永監督はほぼ一貫して変身願望をテーマにする。本作においても、公開時39歳、1人の人間としての監督の変身願望が、権藤に反映される。都合の悪い部分も当然のように映し、変身したいと発信し続けるピュアな気持ちが優先されて描かれる。作り手も見る手も、少なからず自らの人生を投影する映画において、監督の純粋さは作品の深度を大きくする装置と化す。
人生ってそう簡単にはいかないもんだな〜と思っているのは、初対面の弁護士を蹴り上げる貫一も、コンビニのパスタサラダばかり食べてるみはりも、近所の奥さんに「元気ですか?」と聞かれ「僕は元気ですよ、奥さんは巨乳ですよね!」と言う権藤も、僕も一緒だった。未来の自分を見ているかのような、遠いようで近い映画に怖さを感じる。
ー満足度ー
65%【100%中】
『おみおくりの作法』(2015)
『おみおくりの作法』(2015)
監督:ウベルト・パゾリーニ
出演:エディ・マーサン、ジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルーリー、アンドリュー・バカン、キアラン・マッキンタイア、ニール・ディスーザ、ポール・アンダーソン、ティム・ポッター
音楽:ビターズ・エンド
ー概要ー
孤独死した人を弔う仕事をする民生係の男が、故人の人生を紐解き、新たな人々との出会いから、生きることとは何かを見つめ直していく姿を描いたイギリス製ヒューマンドラマ。「フル・モンティ」「パルーカヴィル」などのプロデューサーとして知られるウベルト・パゾリーニが監督・脚本を手がけ、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」「戦火の馬」のエディ・マーサンが主演。人気ドラマ「ダウントン・アビー」のジョアンヌ・フロガットらが共演した。ロンドンに暮らすジョン・メイは、孤独死した人を弔う民生係として働いてきが、人員整理で解雇を言い渡され、自宅の真向かいに住むビリーの弔いが最後の案件になる。これまでも誠実に故人と向き合い、弔いをしてきたジョンだったが、最後の仕事にはいつも以上に熱心になり、故人を知る人を訪ね、葬儀に招く旅を経て、心の中に変化が生じていく。
映画.comより
ー感想ー
死や孤独から「生」を語る。世の中にふわふわ蔓延した「死ぬまでにしたいことをする」習慣に、晩年の小津安二郎イズムを纏った元投資銀行家ウベルト・パソリーニ監督がメスを入れる。心の隅に確実に残るような作品。
舞台はロンドン。チャップリン生誕の地ケニントン地区で民生係として働く主人公ジョン・メイの生活は低燃費。毎日同じルーティンで職場に出かけ、夕食は必ず食パン、魚の缶詰、リンゴ、紅茶を白いテーブルクロス上に配置して食べる。家具は寒さを訴えかけるグレー色ばかりで、華やかさと縁のない毎日を過ごしている。死者を弔う仕事をしていてそうなったのか、元々そうなのか。家族も見えないし、口数も少ない、表情もずっと曇っている。そんな彼が、ある弔いを通して少しずつ色づいていく。物静かな彼が微小に変化していく様子はとても魅力的だ。
監督は「死者は最も弱い者であり、彼らをどう扱うか、それがその社会をはかる物差しになる」という。生死問わず、他者と関わろうとする気持ちを持つことが、社会に好影響をもたらす。非道な過去を持つ死者にさえ、親身に弔いを行うジョン・メイは、物語の中で肯定されていく。小さく普通の生活を送る我々にとっての救いのようにも思えた。
生死の境界を良い方向に曖昧へとしてくれた本作。死ぬことをゴールに人生を設計することが当たり前という思い込みが、少し揺らいだ。価値観に変化をもたらし得る貴重な映画を堪能!
ー満足度ー
75%【100%中】