それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『おみおくりの作法』(2015)

おみおくりの作法』(2015)

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監督:ウベルト・パゾリーニ

出演:エディ・マーサンジョアンヌ・フロガット、カレン・ドルーリー、アンドリュー・バカン、キアラン・マッキンタイア、ニール・ディスーザ、ポール・アンダーソン、ティム・ポッター

音楽:ビターズ・エンド

ー概要ー

孤独死した人を弔う仕事をする民生係の男が、故人の人生を紐解き、新たな人々との出会いから、生きることとは何かを見つめ直していく姿を描いたイギリス製ヒューマンドラマ。「フル・モンティ」「パルーカヴィル」などのプロデューサーとして知られるウベルト・パゾリーニが監督・脚本を手がけ、「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」「戦火の馬」のエディ・マーサンが主演。人気ドラマ「ダウントン・アビー」のジョアンヌ・フロガットらが共演した。ロンドンに暮らすジョン・メイは、孤独死した人を弔う民生係として働いてきが、人員整理で解雇を言い渡され、自宅の真向かいに住むビリーの弔いが最後の案件になる。これまでも誠実に故人と向き合い、弔いをしてきたジョンだったが、最後の仕事にはいつも以上に熱心になり、故人を知る人を訪ね、葬儀に招く旅を経て、心の中に変化が生じていく。

映画.comより

ー感想ー⁡

死や孤独から「生」を語る。世の中にふわふわ蔓延した「死ぬまでにしたいことをする」習慣に、晩年の小津安二郎イズムを纏った元投資銀行家ウベルト・パソリーニ監督がメスを入れる。心の隅に確実に残るような作品。

舞台はロンドン。チャップリン生誕の地ケニントン地区で民生係として働く主人公ジョン・メイの生活は低燃費。毎日同じルーティンで職場に出かけ、夕食は必ず食パン、魚の缶詰、リンゴ、紅茶を白いテーブルクロス上に配置して食べる。家具は寒さを訴えかけるグレー色ばかりで、華やかさと縁のない毎日を過ごしている。死者を弔う仕事をしていてそうなったのか、元々そうなのか。家族も見えないし、口数も少ない、表情もずっと曇っている。そんな彼が、ある弔いを通して少しずつ色づいていく。物静かな彼が微小に変化していく様子はとても魅力的だ。

監督は「死者は最も弱い者であり、彼らをどう扱うか、それがその社会をはかる物差しになる」という。生死問わず、他者と関わろうとする気持ちを持つことが、社会に好影響をもたらす。非道な過去を持つ死者にさえ、親身に弔いを行うジョン・メイは、物語の中で肯定されていく。小さく普通の生活を送る我々にとっての救いのようにも思えた。

生死の境界を良い方向に曖昧へとしてくれた本作。死ぬことをゴールに人生を設計することが当たり前という思い込みが、少し揺らいだ。価値観に変化をもたらし得る貴重な映画を堪能!

ー満足度ー

75%【100%中】