それでも僕は映画を見る〜ヤマシンの映画ブログ〜

映画の感想を書くことを生き甲斐とした男のブログでございます。

『ローリング』(2015)

『ローリング』(2015)

f:id:movieyamashin:20220106125055j:plain

監督:富永昌敬

出演:三浦貴大柳英里紗川瀬陽太、松浦裕也、磯部泰宏、橋野純平、森レイ子、井端珠里、杉山ひこひこ、西桐玉樹、他

配給:マグネタイズ

ー概要ー

パビリオン山椒魚」「乱暴と待機」の冨永昌敬監督が、盗撮事件で地元を追われた元教師が東京から女を連れて地元に帰ってきたことから巻き起こる人間模様を、全編水戸ロケを敢行し描いた作品。茨城県水戸のおしぼり業者で働く貫一は、盗撮事件を起こし行方をくらましていた元高校教師の権藤と再会する。かつての教え子たちにつかまり糾弾され面目を失う権藤。さらに、権藤が東京から連れて来ていたキャバクラ嬢のみはりに貫一が一目ぼれし、貫一は権藤から彼女を奪ってしまう。一方かつて権藤の盗撮した動画に録画されたある人物に目を付けた貫一の悪友たちによって、芸能事務所を巻き込んだ思わぬ騒動が巻き起こる。

映画.comより

ー感想ー⁡

巻かれて出されるおしぼりの形態と、roaring twenties【狂騒の20年代】を意味したタイトル。川瀬陽太演じる元高校教師権藤は、汚れたおしぼりが工場で洗われて新品同様パッケージされていくかのごとく、盗撮事件の過去を洗って歩み出そうとする。ジャズ・ミュージックやトーキー映画が流行した1920年代かのごとく、教師という職業から解放されて自由になろうとする。しかし過去から逃れられず、車輪みたいに人生をローリングする男の物語。人間なら皆が心当たりのある、変身願望を冷徹に描いた怪作。⁡

カメラを止めるな!』のロケ地としておなじみ水戸という街で、キャバ嬢のみはりと恋をする権藤が元教え子のおしぼり回収業者として働く貫一と出会う。貫一はみはりに惹かれ、妙な三角関係が始まる。元盗撮教師と教え子がキャバ嬢を奪い合う、PTA顔面蒼白のシナリオ。しかし他人事として傍観することを許してもらえない。予想を裏切る生々しさと一手間加えられた演出の数々。誰かに気に入られることを無視した豪快さ。強いコントラストが全体を補強する。低予算でも、諦めや妥協はほぼ見受けられない。「今日から変わった」となぜか明確な線を引いて変身しようとする人間を、客観的にみたときのせつない気持ちが胸をえぐる。権藤が40歳を過ぎて「オレはもう自由だ」と自転車を蹴飛ばし颯爽に歩く姿は映画史に残るワンシーンだ。貫一や権藤の生活様式が性格を理解した気になれるほど見て取れず不安があったが、そこは僕の技量の小ささと、好みの違いによるものかもしれない。⁡

パビリオン山椒魚』『パンドラの匣』『乱暴と待機』さらには後年の『南瓜とマヨネーズ』『素敵なダイナマイトスキャンダル』も含め、富永監督はほぼ一貫して変身願望をテーマにする。本作においても、公開時39歳、1人の人間としての監督の変身願望が、権藤に反映される。都合の悪い部分も当然のように映し、変身したいと発信し続けるピュアな気持ちが優先されて描かれる。作り手も見る手も、少なからず自らの人生を投影する映画において、監督の純粋さは作品の深度を大きくする装置と化す。

⁡人生ってそう簡単にはいかないもんだな〜と思っているのは、初対面の弁護士を蹴り上げる貫一も、コンビニのパスタサラダばかり食べてるみはりも、近所の奥さんに「元気ですか?」と聞かれ「僕は元気ですよ、奥さんは巨乳ですよね!」と言う権藤も、僕も一緒だった。未来の自分を見ているかのような、遠いようで近い映画に怖さを感じる。⁡

ー満足度ー

65%【100%中】